伝染病も怖いけど、やっぱり人間がいちばん怖い。
たぶんそこが一番描きたかったんだと思うんですが、
この映画が公開されたのが2017年。
制作陣はまさかその3年後の世界で、コロナが流行るとは夢にも思ってなかったでしょう。
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あらすじ
病気の魔の手から逃れようと森の奥深くにひっそりと暮らすポール(ジョエル・エドガートン)一家。
そんな一家に、ある夜侵入者が現れる。
彼も同じく病気から家族を守るため森へ逃げたものの飲水が不足し、空き家だとおもったポールの家に侵入したという。
鶏などの家畜を提供するかわりに、飲水がほしいと告げる侵入者ウィル(クリストファー・アボット)。
了承しウィル一家と暮らすようになったが、外の脅威が高まるにつれ次第に2家族の間に不穏な空気が流れ始める…
ネタバレ考察
病気の正体は明かされない
映画タイトル”It comes at night”は、文字通り「それは夜にやってくる」です。
「それ」とはつまり病気です。
面白いことにこの映画では、恐怖の原因である病気についてはほぼ語られません。
具体的な情報は一切なしです。
分かることといえば、
- 空気感染(ポール一家はガスマスク装備)、もしくは接触にて感染
- 発症すると皮膚に症状が現れ、吐血
- 治療薬や治療方法はないらしい
これくらいです。
ということは。
描きたいのは「それ(病気)」の正体ではなく、それに巻き込まれた人間の狂気なんです…
直接的な死因は?
この映画、冒頭から人が亡くなります。
ポールの妻サラの父が病気に感染しており、もう救う手立てがない様子。
心を決めた一家は、まだ生きている父を殺害するんですよ。
家族自らの手で。
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それだけひっ迫した状況なのかとストーリーを追うことになるんですが
鑑賞後気づきます。
あれ?
この映画で亡くなった人すべて、病気で死んでないと。
確かにサラの父とサラの息子トラヴィスは病気に感染しています。
ただ感染が直接的な死因ではありません。
病気で亡くなってしまう前に、
皆恐怖にかられた人から手を下されているんです。
ポール一家だけではなく、元侵入者のウィル一家だって病気が直接的な死因ではありません…
閉塞感と疑心
ではこれだけの悲しみを生んでしまった原因はなんなのか?
それは疑心です。
一旦ウィルを受け入れ、ともに生活を始めたポール。
気をゆるしたのもつかの間、酒を交えた会話でウィルの嘘がほころびます。
その小さなほころびからポールの疑心が膨らみ、暴走し悲劇へと転がりはじめるわけです。
そしてその悲劇を私達は、ポールの息子トラヴィスの視点を通して体感することになります。
映画冒頭の大好きな祖父の最後に立ち会わされる感情。
家族を守るために絶対的な立場をとり、有無を言わせず指揮をとる父。
それに従うしかない母。
唯一の友、犬のスタンリーの最後。
突然やってきたウィルの妻キムへの感情。
そして見えないもの「それ」に対する恐怖と疑心に操られる大人たち。
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映画のポスターにもありますが、
ホントに閉塞感たっぷりの映画ですww
17歳という、とても曖昧な年齢のなかで
頼りたい大人たちが次々に壊れて行くわけです…
観ている私はまさに
壊れたいのはこっちだよ!状態w
上映時間92分で丁度いい長さです。
これ以上は無理!
コロナ禍で観ると
映画を鑑賞された方はすでにお気づきだと思うのですが
この映画の世界は、まるでコロナ禍の私たちの今の世界です。
映画を鑑賞する前、あらすじを読んだときはまさか映画の状況が
こんなにもリンクするとは夢にも思っていませんでした。
伝染する病に怯え、自衛を行いながら、よそからくる人がルールを破ったのではないかと
嘘をついているのではないかと疑りながら、自分自身が内側から壊れてゆく姿は
数ヶ月前の私たちそのものではないでしょうか。
外出自粛のさなか、親を頼るしか生きる選択肢がない子供たちの
あのときの感情をこれでもかと見せつけられているようでした。
映画のなかでは最悪の結末を迎えますが、
どうか現実にはならないようにと願うばかりです。
コロナ禍でアメリカ映画『コンテイジョン』が話題となりました。
感染に対する爆発的なパニック映画ならコンテイジョンですが、
疑心が人間を内側からゆっくりと苦しめてゆく恐怖を味わうなら
『イット・カムズ・アット・ナイト』がおすすめです。
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