怖すぎる。ただただ怖すぎる。
ホラーのつもりで観たNetflixドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』は怖くないのに、社会派スリラーのつもりでみた『ゲット・アウト』のほうが怖いってどういうことなんでしょうか?w
そう。
「幽霊よりも生きている人間のほうがこわい」
そんなことを思い出させる作品です。
【あらすじ】
NYにすむクリス(ダニエル・ピール)は、恋人のローズ(アリソン・ウィリアムズ)の実家へ週末に遊びにいく。
しかしクリスには気がかりな点が。
それはクリス自身が黒人のため、ローズの両親に受け入れられないのではということ。
ローズの両親はまだ娘の彼氏が黒人だとしらないのだ。
しかしローズは「オバマに3期目があったら絶対投票するっていうひとたちだから」と、クリスをともない郊外の実家へむかう。
気さくに迎え入れられたクリスだが、
自身にたいする父親のテンションや使用人が黒人であることなどに違和感をおぼえる。
その違和感は、ローズの祖父を弔う集いで恐怖にかわりクリスを襲う・・・
【自分自身の深淵をのぞいてしまった】
この映画はほんっっっっとに怖かったw
「白人家庭にやってきた黒人の恋人」という、わたしたちでも震え上がる、想像しやすい恐怖な設定。
その白人家庭にゲストとして招かれる、恋人クリスへの「差別」を描いています。
このプロットは監督自身の経験にもとづくものだそう。
「何年も前、白人の女性とつき合っていた時に、彼女の両親に会いに行ったことがあった。ものすごく、怖かった。かすかなことであれ不快なことを誰かに言われる、あるいは何らかの形で、招かれざる感じを覚えるんじゃないかと。そうした恐怖がその通りになったということはなくて、その家族を責めるわけでもないけれど、実際、私は怖かった。それが今作のプロットとなった」
Asahi Shinbun Global+
『ゲット・アウト』「私はオバマ主義。だから人種差別はしない」の欺瞞を突く。より
今までの黒人に対する差別。それとは違うあきらかな「違和感」がストレートに「怖い」のです。
ローズ宅にあつまった人々は、ほぼ白人。
しかも経済的にも安定し、リベラルな印象をあたえるような人たちばかり。
おもてだってクリスに嫌悪感を表す者はひとりもいないのですが、
クリスにかける言葉が、あきらかに非常識なものがおおいのです。
「黒人であることはトレンドだ」「夜は強いのか?」「黒人であることのメリット・デメリットは?」等々・・・
これらの言葉たちを、初対面でにこやかに、そしてときに真正面に投げかけます。
このひとたち、いったいなんなんだ・・・
この居心地の悪さは、なに?
この違和感を、残念ながら、自分の言葉で言い表わせませんでした。
自分の語彙力のなさにしょんぼり。
ピール監督は
「憧れがもたらす人種差別」と呼ぶ、何世代にも渡って続いてきた白人のセレブリティたちによる黒人文化の盗用は、本作における明確なテーマのひとつだ。「マジでムカつくよな。だからこそ訴えたいわけだけどさ」。ピールはそう話す。
(盲目の画商について)「盲目である以上、人を肌の色で判断することは文字通り不可能なはずなのに、あの男は人種差別のシステムに加担している。才能ある黒人のアーティストの目を自分のものにすることで、あの男は自分に欠けているものを補うことができると信じてるんだ。それはあの映画のマニフェストと言っていい。またそれはオバマ政権時代に広く共有されていた感情と、黒人であることのアドバンテージという迷信に対する批評でもあるんだ」
ともに RollingStone 『ゲット・アウト』の監督が教える、「悪夢」のつくりかた より
とインタビューで語っています。
映画を観ている私にも
「白人による、わかりやすい差別をえがく映画だとおもってない?
そういうふうに着地をするとおもってたでしょ?
それこそが、まだ人種差別がおわっていない証拠だよ」
と突きつけられた気がします。
【じつはもう一つ、エンディングが存在した】

当初は、上映されたエンディングとは、まったく異なるエンディングになる予定だったようです。
今回のエンディングになった理由も、やはり差別でした。
オバマ政権をむかえ、「人種差別はすでに過去のものだ。語るのをやめよう」という声も聞かれていたアメリカ。
しかし、「人種差別はまだおわっていない」ことを打ち出すために、バッド・エンディングを準備していたのですが、時をおなじくしてアメリカ全土で、警察が黒人へ不当な理由で射殺をする事件が多発。
そこでピール監督は、あえてハッピー・エンディングを選択したそう。
観客は今作によって逃避、あるいは解放感を得る必要があると思った
Asahi Shinbun Global+
『ゲット・アウト』「私はオバマ主義。だから人種差別はしない」の欺瞞を突く。より
とインタビューで語っております。
このエンディングで良かったです。じゃないと夢にでそうw
【なぜ『ゲット・アウト』なのか】※ネタバレ※
最初はローズの家族から、「黒人はでていけ」の意味だと思っていました。
しかし、彼らは黒人に価値をみいだし、生まれ変わりたい願望をもっている人すらいたわけです。
ではなぜ「ゲット・アウト」なのか?
劇中でクリスが親近感をもち話しかけたのは、同じく黒人のアンドレ。
彼に違和感をおぼえ写真におさめときのフラッシュに、アンドレが過剰反応。
「Get Out」と叫びながら、クリスにむかって暴れだします。
映画を最後までみると、フラッシュの意味がわかります。
アンドレはクリスのフラッシュで一瞬自分にもどり、のっとった白人にたいし、出て行けと暴れていたわけです。
白人社会から黒人への「ゲット・アウト」ではなく、のっとられた黒人から白人へのゲット・アウトだったんですね。
【粋なやつ。Chance the Rapper】
この映画をみて、めっちゃ感銘をうけたChance the Rapper。
なんとシカゴにある『ゲット・アウト』を上映している映画館のチケットをすべて購入し、そこにきた人は皆タダでみられるようにしたんだそう!
やることがかっこいいぜ、Chance the Rapper。
監督はホラーを作りたくて、社会派スリラーになってしまったそうですが、
まさか『憧れがうみだす人種差別』をえがく映画だったとは。
画面にかじりつき、振り回された上映時間104分でした。
すでにピール監督の次回作『Us』は公開ずみ。
こちらはぐぐっとホラー色の強い作品です。
あぁ 楽しみ❤
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